Narrative 02

共感を広げるプロセスのデザイン | poRiff 薮内都

カラフルでポップなデザインが人気のpoRiff(ポリフ)のプロダクト。
主な材料は買い物でもらうポリ袋。一見捨ててしまうようなポリ袋をカットして、色とりどりにコラージュし、熱で圧着して完成するシートを使って素敵なプロダクトが生み出されています。
そんなポリフを制作しているのは、岸和田市にある就労継続支援B型事業所オーロラと、東大阪市にある生活介護事業所活動センターいっぽの二つの福祉施設。カットからミシンによる縫製まで、すべて障害のある人の仕事として行われています。
支援員として2つの施設で働きながら、ポリフの商品開発と営業活動を展開している代表の薮内都さんにお話を伺いました。

ポリフのプロダクト(写真提供:poRiff )

ポリフが生み出された経緯を教えてください。

都:ポリフは大阪府岸和田市の精神障害のある人が通う地域活動支援センター「かけはし」で生まれたプロダクトです。2007年、障害者アートが施設で注目され始めたころ、アート作品としてつくりはじめられました。2009年の水都大阪にもアーティストの藤浩志さんの作品と一緒にフラッグづくりで参加していました。当時は、障害のある人たちが日常生活に慣れるための支援をする場所でレクリエーションとしてつくられていました。その後、就労継続支援B型の事業所オーロラでつくられるようになり、仕事として展開していくために、ポリフの商品化を目指すタイミングで合流することになりました。

アートとして制作されていたころのpoRiffの作品

就労継続支援B型の事業所「オーロラ」

どのようなきっかけでポリフに関わることになったのでしょうか。

都:わたしは福祉とデザインをテーマに大学院で研究をしていたころにポリフと出会ったんです。福祉施設でのものづくりは、デザインの専門知識のない福祉関係の職員が主体となって制作され、プロダクトとして完成されていない安価なものが多かったのです。福祉職は支援をすることが仕事の中心で、商品開発や販売、営業など全てを受け持つには限界があります。外部から入って、営業したり、ワークショップをしたり、商品開発をする人が求められていました。
ポリフに合流したのは大学院を卒業してすぐ、23歳のころです。学生時代から現場に入って、直接関わりながらやってみたかったんです。ポリフは現場での支援とプロダクト開発の両方に携われる環境を用意してくれたんです。

poRiff代表としてトークイベントなどにも登壇

ワークショップで参加者に説明する都さん

ポリフに合流して、どんな取り組みをしていったのですか。

都:実際、ポリフに入ってみたら、ポリフを制作している人はほとんどいなかったのです。面白いのになんでみんなつくらないんだろうと思ったのを憶えています。実際はあまり売れていなかったので、つくっても仕方がないと、本当にその作業が好きな人だけで制作されている状態でした。初期のころのポリフは素材がペラペラで強度的に問題がありました。布と合わせるなどさまざまな試行錯誤をし、とにかく、日常的に使えるものにしたいと改良を重ねました。そして、商品のクオリティが上がり売れ始めると、つくり手が戻ってきたのです。「オーロラ」の他に「いっぽ」という二つの施設で生産する体制を整えていきました。
施設に通っている利用者の方は働きに来ているという意識が強いんです。やりがいはとても大切です。商品が売れると積極的に来てくれるようになりました。自分がつくったものが売れるというのは、わかりやすくやりがいを感じることができるのです。

細かくカットされたポリ袋

素材をコラージュしてシートを作成していく

「面白いのに、なんでみんなつくらないんだろう」と思ったといわれていましたが、当時「面白い」と感じだのは何だったのでしょうか。

都:「良い!」と思ったんです。とにかく見た目がかわいかった。ポリフのプロダクトに惚れ込んだんだと思います。そして、好きにつくれるけど、アートじゃないということが魅力でした。どんどん違う人にパスして一枚のシートをつくっていく。ポリフは一人で一からシートを完成させるものは少なくて、作品ではなく仕事として制作することができる。当時、障害のある人たち誰もがアーティストとして活動できるわけではないのに、アート活動ばかりが注目されていました。特別な才能があるわけはないけれど、ただ普通に毎日施設に来て、仕事としてものづくりで活躍できる場所やしくみをつくりたかった。得意なところや好きなことを補い合いながら分業制で生産するシステムを構築していきました。

新製品の開発が日々施行錯誤されている

都:はじめてポリフをつくっている施設に遊びに行った時、おじいちゃんがつくっているのをみていて、「すごいですね!」と声をかけたんです。そしたら、おじいちゃんが「ビニール切っているだけや」と。はっとしました。求めていたものがそこにあったというか、そういう気持ちで作業をしている人たちがたくさんいるし、そういう人たちの仕事をつくることがデザインとしてできることだと確信したのです。

2つの施設で生産されていますが、施設ごとに特徴があったりしますか。

都:はい。それは出てきますね。「オーロラ」と「いっぽ」では商品の特徴が全然違います。そして、お互い気にしているんです。それぞれの特徴をあげれば、「オーロラ」は市場を意識した商品をつくり、クオリティを重視している感じです。「いっぽ」は個性的なコラージュなど、攻めたデザインが多かったりします。職人の個性が出てくるんですね。どちらで制作したかは、商品をみれば一目でわかります。そして、「オーロラ」の人たちは「いっぽ」の商品が好きだし、「いっぽ」の人たちは「オーロラ」の商品はつくりがしっかりいると感心しています。特に「オーロラ」で働く人たちは、売り場の声、共感の声、自分自身が共感することも含めて、そんな声を知ることが好きなんです。新しいのをつくったり、良いのができた時は見せに来てくれたり。そして、売れているものを気にして、インスタグラムもこまめにチェックしています。ネットで売れたこともわたしより早く気づいて教えてくれたりもするんです。

プロダクトとして人気が高まり、現在、商品は発注から4か月待ちという人気ぶり。香港やイギリスからも出店のオファーを受けるなど、海外へも取り組みの領域が広がっています。それでも、代表の都さんは今も支援員として施設で働きながら、ポリフの商品開発と営業活動に取り組まれています。

都:合流当初から今もこだわっているのは、毎日現場で起こることを一緒に体験すること。月に一度くらいしか現場に来なければ、現場でつくっているものと売れているものに差が出てくると思うのです。ほぼ毎日、現場に通う中で商品をつくっているので、利用者の声を毎日聞き、外での反応を話しています。そうすることで、つくり手と売り場のテンションのすり合わせができます。そんな摩擦が生まれない状況をつくることを大事にしています。

去年の6月、あべのハルカス近鉄本店が開催するアップサイクルをテーマとしたイベント企画から依頼を受け、ポップアップショップを出展、ワークショップやトークイベントにも登壇されました。アップサイクルとは、古くなったものをアイデアやデザイン、テクノロジーの力で新たな価値を生み出すモノにつくりかえること。アップサイクルをテーマにしたイベントは、さまざまな百貨店で開催されており、社会的な関心が高まっています。

百貨店で販売されているpoRiffのバッグ

  • 百貨店で開催したトークイベントの様子
    登壇者:アーティスト柴田英昭さん(淀川テクニック)
    コーディネーター:中脇健児さん(場とコトLAB)

    リサイクルやアップサイクルなど、環境負荷へのアプローチというテーマでの依頼も、最近、増えていると思いますが、それについてはどのように感じていますか?

    都:あべのハルカスで開催したアップサイクルイベントに参加したとき、これまで、リサイクルやアップサイクルなど環境問題へのアプローチについて、あえて考えないようにしてきたと話しました。そこを意識してしまうと「福祉」というものがどんどん薄れていってしまうのではないかと考えていたからです。ポリフは環境問題へのアプローチではなく、障害がある人の仕事づくりがテーマだったから。ところが、プラスチックの再利用やアップサイクルがテーマの依頼がこの1年で倍以上に増加しました。考えないように、見ないようにすることが難しくなるくらい、溢れているように感じています。そろそろ、向き合って考えてみてもいいんじゃないか、ポリフとしての解釈をかみ砕いて考えて、一つの答えをだしてみたいと思っています。
    毎年、一度はポリフの個展を開催することに決めていているのですが、それは、ポリフの活動をふりかえることや、これからのことをしっかり考える機会を持つためです。また、直接商品を売る機会が減ってしまっているので、直接、購入してくださる方とコミュニケーションがとれる場所として個展は大切なので。昨年は11月に吹田市のギャラリーで開催しました。これからも、そんな機会を大事にしていきたいと思っています。

    個展で展示されていたパネル

  • 個展の様子

    これからにむけて、どんなことをしていきたいですか。

    都:数年前、アディダスが100%海洋ゴミを使用した「ハイテクスニーカー」を発表したことが話題になっていました。海に廃棄されたプラスチックのゴミから繊維をつくり、それをシューズやスポーツウェアに使用していく。面白い取り組みだし、わたし自身、そんなものづくりに惹かれます。今、確実にポリ袋は減ってきています。脱プラ、ノープラと言われる中、ポリ袋のゴミが無くなってしまったらポリフはつくれなくなります。それをどうとらえていくかは、これからの課題だと思っています。
    そして、海外への展開も興味があります。海外からのオファーも少し増えてきているので、力を入れていきたいと思ってます。

    ポリ袋という、ありふれた、すぐに捨ててしまうような素材を人気のプロダクトに変えることができるポリフの取り組みは、経済的な価値だけでなく、働きたい人が活躍できる場や、やりがいや共感を生み出すプロセスなど、さまざまな価値を生み出しています。
    ポリフのバッグをもっていると、そのカラフルでポップなかわいさに反応され、声をかけられることが多いのです。その時に語れることがたくさんあるということは、本当に大きな魅力です。都さんがこだわり続けている、さまざまな人が関わり、共感を広げていくプロセスには、ものがたりがたくさん詰まっているから。
    そのモノについて、語りたくなる。
    これからの商品にはなくてはならない要素となっていくのではないでしょうか。

    text & photo:林 彩華