Narrative 01
いつまでも大好きでいられる、手づくりの服 | MAGALI 荘村恵理子
MAGALIは、フランスのごくありふれた女性の名前。フランス人のように、古いものを大切にしたいという思いを込めて、名付けられたブランド名です。
丁寧に選ばれた上質の素材と、パターンから追及したデザインやこだわり抜かれたディテール。懐かしいのにどこか洗練されていて、ずっと昔から着ていたような、着心地と愛着を感じるお洋服が魅力のブランドです。
ついこの前まで、企画、デザインから製造、販売までを、デザイナーの荘村恵理子さん一人で運営されていました。商品は全てご自身で縫ってつくっていたそうです。そんな中、5年ほど前までは10店舗ほどだった取扱店が、今期は30店舗にまで増加。スタッフも2名増え、恵理子さんにとって、本望だという「手づくりの本」を出版する企画も進行中。
子どものころから好きだったという服づくりと、今のスタイルに至るまでの想いや、これからのことをゆっくりとうかがいました。
2019あきふゆコレクションより
MAGALIを立ち上げる前は、大阪の南船場にあったAscenseurl(アサンスール)というお店で店長をされていました。当時、アサンスールはインポートやオリジナルのアイテムが揃う人気店。フレンチスタイルのセレクトショップで、いつ行ってもときめくような色や遊びのある魅力的なアイテムがみつかるお店でした。店舗の奥にアトリエがあって、そこでオリジナルのお洋服がつくられていました。
アトリエ付きのお洋服屋さんは、当時も今もあまりないスタイルですね?
恵理子:そうですね、あまりないスタイルだったかもしれません。今も取り扱ってくれる店舗の方に「昔、アサンスールでお洋服を買っていたんです」と、よく言われるんです。それが関西だけではなくて、遠方のお店だったりするのです。現在、MAGALIを手伝ってくれているスタッフも、みんなアサンスール時代に一緒に働いていた人たちで、好きなものはずっと変わらず好きなんだなと思います。
MAGALIを立ち上げられたのは2007年、アサンスールやめてすぐのこと。東京の合同展示会に出展され、それ以降、MAGALIで頑張っていこうと思っていた矢先に出産を迎えることに。
恵理子:当時、MAGALIも頑張りたかったのですが、子どものこともおろそかにできないし、子育てができるのは今だけだという想いもあって、ちょっとペースを緩めていた時期が続きました。
制作を休んでいたこともあったんですか?
恵理子:いえ、2007年以降、ずっと何かしらつくり続けてきました。お手伝いしてくれる方もいたので、細々と点数は少なかったのですが、立ち上げて以降は毎シーズンつくり続けています。
そんな中、2010年に鎌倉のお店からお声がけいただいて、展示会を開催することになったんです。10アイテムくらいからでもいいからやりたいと言われて。幸運なことに初回からとても反応が良くて、それから毎シーズン、一度も途切れることなく展示会を開催し続けています。最初はアイテム数も少なかったのですが、毎回購入してくださるお客さまがいて、どんどん顧客さまが増えていきました。
鎌倉のお店は洋服店ではなく小さな雑貨店です。1階に小さなお店のスペースがあって、靴をぬいでお邪魔するような。そんな小さなお店で開催する展示会には、今もたくさんの方がお越しくださいます。ずっと続けられたのは、毎回、展示会を楽しみにしてくださる方がいたから。本当に恵まれていると思います。
今回の取材で訪れたのは、MAGALIのお洋服が生まれるアトリエ。2020はるなつコレクションのアトリエ展示会開催中にお邪魔しました。素敵にお洋服がディスプレイされた空間は、まるで小さな洋服店のよう。大阪塚本にあるヴィンテージとアンティーク家具を扱うお店SHABBY'S MARKETPLACEにコーディネートを依頼し、展示会用にアトリエ空間をアレンジ。えりこさんのこだわりとゲストへの心遣いが感じられる、とっても居心地のいい空間でした。
展示会用にアレンジされたアトリエ空間
毎回のコレクションはどのようにつくられているのでしょうか。
恵理子:コレクション展開で大事にしていることは、1つのシーズンの中での着合わせ。どれとどれを合わせても良いように、コーディネートのしやすさを意識するようにしています。そして、着心地の良さとサイズ感。最近は特にサイズを大きめにしていますが、小さくてきゃしゃな人が着てもおさまりがいいように工夫しています。
コレクションの企画を考えるときは、まず、中心になるアイテムをつくって、そこから広げていきます。今シーズンの中心アイテムは、初挑戦アイテムの「ジレ」。
新しいコレクションアイテム「ジレ」
頭の中のイメージを伝えるのはとても難しいのですが、理想のコーディネートをした女性の姿が浮かんでいて、そのスタイルを実現していくようなアイテムを、つくりながらカタチにしていきます。
デザイナーがデザイン画におこして、パターンナーがパターンを作り、サンプルが上がってくるという工程があると思うのですが、私は実際に縫いながら、頭の中にあるイメージに近づけていくようなやり方で制作しています。袖をつけて、違うと思ったら別の形のものに付け替えたり。袖と襟元はいつも悩むのですが、特に袖は必ず迷うので、サンプルはアームホールを取り外せるようにしています。実際に何度も付け替えて、試してを繰り返して仕上げていきます。
アトリエ展示会に並べられた次シーズンのアイテム
テキスタイルメーカーに勤務していたのちに、ヨーロッパでアンティーク服の買い付けやアパレルの企画、バイイングを経て立ち上げたブランドMAGALI。ブランド運営のすべてをお一人で展開し続け、その制作プロセスからお洋服の細部にまで、つくり手のこだわりが感じられるのがMAGALIの最大の魅力でしょう。そして、普段着として手に届く価格帯で展開し続けているブランドスタイル。
こうしてやり続ける言動力はどこにあるのでしょうか。
恵理子:服が好きで、とにかく、服をつくるのが好きなんです。好きなことを仕事にできているという感覚ですが、母親の影響が大きかったと思います。とても洋裁が好きだった人で、洋裁教室に通っていました。その影響で、私も小学5年生の時に初めて自分のスカートをつくったことを覚えています。2ピースのお洋服などもつくって着ていました。
昔、「装苑」という雑誌の後ろの方にパターンが掲載されていて、中学生くらいの時に、ギャルソンなどの有名ブランドの服のパターンがたくさん紹介されていました。そのパターンは、そのまま型紙として使えるようなものではなく、原型を写して、自分のサイズを入れて計算して展開していくようなものでした。何が何でも作ってみたいと、必死で考えて型紙をおこして、ジャケットをつくったことを思い出します。
そのように独学でつくり方を学んでいったので、その時はやり方が正しかったのかはわからなかったのですが、なんとかカタチにすることはできていました。大学や専門学校で専門的に服飾を学ぶようなことはなかったのですが、アサンスールで働いていたころ、アトリエにパターンナーがいたので、教えてもらったりしていました。そうして働きながらスキルを磨いていきました。そんなことが、今の制作方法にもつながっているんだと改めて思います。
パターンが紹介されている「装苑」のページ
手づくりの本は、いろいろな意味でMAGALIの原点といってもいいようなものなんですね。
恵理子:本当にそうです。Instagram経由で作品をみたという編集者の方から依頼をいただいたのですが、お話をいただいた時は嬉しくて。これこそ本望だと思いました。
本づくりの中でこだわっていることは、つくりやすさとMAGALIのテイストを活かしたものであること。簡単な手作りの服にはみえないように、掲載するアイテムを厳選しています。今までコレクションで出した服をアレンジしているものもあるし、そのままのものもあります。撮影は2月の中頃。それまでにサンプルを全てつくらないといけないので、頑張らないと。
手づくりの本は文化出版社から初夏に出版予定。
これからに向けて、どんなことをしていきたいですか。
恵理子:自分で染めをしてみたいなと思っています。植物で染める草木染のような、ワンランク上のこだわったものづくりに挑戦してみたいです。
でも、日々、目の前のことに追われて、もがくように生きているから。そこまでこだわってやってみたいけど、実現するには時間がかかりそうです。
MAGALIを着て下さっている方から嬉しいお言葉をいただくことが何よりもの励みになっています。そんなお客さまにつないでくれるのが、MAGALIをお取り扱っていただいている店舗の方々。そんな一つひとつの関係性を大切にしていきたいと思っています。
いつまでも大好きでいられる服を作り続けていくこと。そんなひたむきな想いがMAGALIの洋服には溢れているから、一度袖を通すと、その着心地の良さや扱いやすさに魅了されるのかもしれません。制作された洋服一つひとつから手づくりの楽しさが伝わってくる。MAGALIが好きな方は、本当に洋服が好きな方が多いのです。
そして、新たな取り組みとして1冊の本になることで、もっと広く多くの人に手づくりの楽しさを伝えることができるでしょう。“いつまでも大好きでいられる服”を追求し、発展し続けていくMAGALI。これからも、ますます目が離せません。
text & photo:林 彩華
Event
MAGALI 2020 はるなつ予約会
2020.02.15(土)―02.24(月・祝)
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